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書評:もうすぐ絶滅するという紙の書物について

ウンベルト・エーコ, ジャン=クロード・カリエール
工藤妙子 訳


薄っぺらな技術論を語る電子書籍本など、全て捨ててしまおう。
本が電子ではなく紙であることの素晴らしさを知るためには、本書さえあれば足りるのだから。
本書「もうすぐ絶滅するという紙の書物について」は、ウンベルト・エーコとジャン=クロード・カリエールによる2回の対談の内容を収録したものである。

と言っても、日本の読者はこの両者にあまり馴染みがないだろうから、簡単に紹介をしておく。
エーコはイタリアの記号学者・哲学者であり、それ以外でも幅広い方面で活躍している。中でも、彼の最も有名な側面は小説家としてのものであろう。「薔薇の名前」や「フーコーの振り子」といった著書は世界的なベストセラーになっており、他にも多くの著書が邦訳されている。
カリエールは、フランスの作家・脚本家で、80余りの作品を手掛けており、著作も多数ある。自分も、本書を読むまでは彼に関して詳しいことはあまり知らなかったが、ヨーロッパではとても有名人であるらしい。

この2人の共通点は、大変な博覧強記であり、老練な知識人である、ということである。エーコに至っては、自宅に4万冊の蔵書を誇る、万人が認める愛書家である。


そんな彼らの対談は、「本は死なない」と題された1章で始まる。
本の未来についての彼らの結論は、早くも本章の次の文におおよそ集約されている。

p.24 (エーコ)

物としての本のバリエーションは、機能の点でも。構造の点でも、五百年前となんら変わっていません。本は、スプーンやハンマー、鋏と同じようなものです。一度発明したら、それ以上うまく作りようがない。



齢80にしてUSBメモリを持ち歩く彼らは、技術の進歩を否定しているわけではなく、その利点も大いに認めている。そして、未来は誰にもわからないと彼らは言う。

しかし、それでもなお紙の本が生き残り続けるであろう確かな理由を、非常に斬新な視点を提示しながら語っていく。本書は、電子書籍と紙の書物を横に並べてその特性を比較していく類のものではない。むしろ、電子書籍の機能についての分析はほとんど述べられていない。

文献学者による幻のバージョンの再構築の話、記憶と記録についての考察。
中でも、耐久メディアのはかなさについて述べた部分は鋭い。

p.119(カリエール)

つまり五世紀も前に印刷された文章を私たちは読むことができるんです。しかし、電子カセットや、ほんの数年前に使っていた古いCD-ROMは、いまや読むことも観ることもできません。



技術の進歩の影で滅んでゆくものと我々が進歩に追随する為の終わりのない努力の話は、マックス・ウェーバーが、現代人は昔の人と違って、進歩に追われて”未完の人生”として死んでいく存在である、と述べたことを思い出させる。

インターネットの登場により、情報がいかに変化したか、そしてそれに伴って我々の思考様式はどのように変化していくのか。彼ら”古き良き”知識人が語るインターネット論は、そのどれもが深い洞察に満ち溢れているものだった。


本書の後半に至り、二人の対談は取りとめのない”放談”といった様相を呈する。
古書の収集の話や蔵書の管理の仕方、歴史上の焚書の話。話題があちこちに飛ぶ中で、2人は本がいかに魅力的なものかを大いに語る。並みはずれた読書家である彼らの本との接し方や読まなかった本についての話は、本好きな読者にとってはたまらないはずだ。


こうした様々なエピソードとともに彼らが繰り返し述べるのは、紛れも無く本に対する2人の「愛」であって、紙の書物が持つ奥深い魅力、その代替不可能性である。電子書籍について語らないことによって、かくも豊穣に紙の本の優位性を語った書物がこれまであっただろうか、と唸らずにはいられない。

こうして雑多なテーマに揺られながら、対談はフェードアウトしていく。


訳者あとがきもまた素晴らしい。本書の評を終えるにあたって、この一文よりもうまく終えることができなさそうなので、そのまま引用することで結びにかえる。

p.464

二人の案内で、書物の宇宙を一望した旅路の末に、私たちが気付くのは、世にある全ての書物一冊一冊が旅路のようなものだということだ。書物というものを、過大評価もせず、ただ素直にいとおしみ、気負わず気楽に人生に取り入れる方法と、それによってもたらされる豊かさを、本書は手加減なしに教えてくれる。




その独特の装丁(Amazonで画像が見られる)から編集・訳まで、その全てが本を愛する人達によって編まれた一冊だと確信するに足る出来栄えだった。本好きなら、読むべき。


もうすぐ絶滅するという紙の書物について




"そして私が認めざるをえなかったのは、読んでいる本にそこまで興味がなかったときもあったということです。私はただ読むのが好きだったから、何でもかんでも読んでいたんです。これは子供心にも衝撃的な大発見の一つでしたよ!"
- Umberto Eco

"このページが凄いんです。我々に直接、単刀直入に、我々の話をしてくるわけです。(中略)偉大な書物がなぜすごいかというと、開けば我々の事が書いてあるからで、だからこそ親しみやすく、現代に通じているのです。なぜなら、人類はその頃から生きているわけで、人類の記憶は書物に添加され、混入しているんです。"
- Jean-Claude Carriere

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